神秘的で凛とした佇まいの中にも独特の華やかさ 「巫女装束」
「巫女装束」 あるいは 「巫女服」 とは、日本神道における 神 に仕える未婚女性の祭司、巫女 が身に着けている装束、衣装の和服のことです。 おたく用語 としては、現実の神宮や神社などで見かける正式な規定に基づく実在装束や伝統的な様式による装束を巫女装束、それ以外の巫女装束風の衣装を巫女服 (あるいは巫女風服とかコスチュームとか) と呼んで区別するケースが多いでしょう。
一般的なイメージとしては、全体が白赤となる白衣 (小袖) と緋袴 (ひばかま/ 緋色や紅色で スカート のような形の行灯袴やそれ以前は切袴) を中心とした和服で、襟の部分に赤い掛襟、腰の前部分に同じく赤い リボン のような結び目 (蝶結び) があり、下着としての腰巻や肌襦袢、襦袢、足元は足袋に赤い鼻緒がついた草履が多いでしょう。 白衣の袂 (たもと/ 袖の下の部分) は対丈 (ついたけ) でお端折り(おはしょり) はなく袖寸は留袖程度の長さ (約62.5cm)、緋袴には白い上指糸 (刺縫) と呼ばれる装飾の紐が縫い付けられています。 帯は胸のすぐ下あたりで結びます。 これらはもっぱら作業用の衣装となります。
また巫女と云えば優雅な神楽の舞ですが、それに合わせ薄手の貫頭衣のような白い千早 (ちはや/ 舞衣) を身にまとうこともあります。 併せて金色の前天冠や烏帽子 (えぼし)、花冠、水引、簪 (かんざし) を頭に、採り物 (持ち物) として神楽鈴 (かぐらすず) や玉串 (たまぐし/ 紙垂 (しで) や木綿 (ゆう) がついた榊の枝 (葉っぱ)、御幣 (ごへい)、神楽面 (能楽や歌舞伎などに用いられるお面) が用いられることもあります。 巫女がもっとも 映え る姿であり、舞の他、お祭り などで行列に参加することもあります。 神事によっては裳 (も) と呼ばれる、床に引きずる長い裾 (スカートのトレーンみたいなもの) を腰の後ろに付けることもあります。
髪 は 長め の 黒髪 を後ろで一つ結びした形 (結び目がやや下になる ポニーテール・ひっつめ (引詰め髪) で、結び目に髪飾りとして麻紐で結んだ奉書紙や熨斗 (のし)、丈長 (たけなが)、併せて髢 (かもじ/ 添え髪) を付ける場合もあります。
一見同じに見える巫女装束も、実際はバリエーション豊か
神道や神宮・神社は天皇の祖先神とされる天照大御神を祀る伊勢神宮を本宗 (総本山)、内宮はその頂点とされ、一般に仏教やその他の宗教にあるような明確な宗派が存在しないとされます。 しかし多神教でもある神道は国家機関である内務省外局の神祇院が 戦前 に統括していた神社神道 (国家神道) でも祭神によって性格が異なります (八幡神社・稲荷神社・天満宮とか色々あります)。
またその他にも神道を基盤とした様々な宗教団体も存在し、それぞれが独自の歴史や教義、文化やしきたり、装束を持っています。 有名なのは明治時代に政府が公認した神道教派の14派 (その後1教派が離脱し13派、現在は加入・離脱を経て12派) ですが、宗教と祭祀の分離とか戦後 GHQ による政教分離のあれこれや離合集散などもあり、装束に関する正式な規定はあるものの、外部から見てこれが巫女の正しい装束だとわからない部分があります。
それ以外にも、多くの伝統的神社が地域に密着した存在だということもあり、その地域の風習や文化、あるいは時代に基づく細かい違いがあります。 加えて同じ神社内であっても、着用者の担う役割や行う神事の種類によっても装束や祭衣が変わります。 一般的に目にしがちなのは白赤の組み合わせが多いものの、白一色の白装束もあれば 色 のついた色装束もありますし、白衣や緋袴の形状や帯の結び方、千早の形や 模様 (青摺)、胸紐の有無、主に男性の直垂のあれこれなどに細かい違いが見られます。 まぁ特定の宗教団体に所属や帰依をしていない人は、地元の神社のそれが正しい姿だとそれぞれが思うよね程度のものです。
和装として明らかにおかしい部分 (例えば洋服のそれに倣って手癖で身頃の前合わせを左前 (死装束) にするなど) は困りますが、細かい部分であれこれ指摘をしても単なる思い込みや ローカルルール に過ぎない場合もあります。
ちなみに和装の場合は パンツ を履かないという話もありますが、ひと昔前や本職の巫女が神事で重要な役割を担うケースはともかく、現在は規定でもちゃんと認められており日常の業務や初詣アルバイトの人たちは 普通 に履いていると思います。 また創作物などで袴の両脇の横の部分のスリット状の開口部 (股立が取られている部分の上、脇空け) から素肌が見えているケースがありますが、実際は腰巻や襦袢や白衣が下まで伸びていて特殊なケースを除いて原則見えることはありません。
創作物・コスプレ用衣装としての巫女服
袴姿の白赤もしくは白い和服に前リボンさえあればそれっぽく見えること、ロングドレスや メイド服 や ゴスロリ といった ワンピース で ボトムス がスカートの形状をした洋服とアレンジしやすいこと、何よりミステリアスで神秘的なイメージから巫女の人気が高まるにつれ、巫女装束をベースとした様々な衣服のアイデアが出されています。
現代風の着物などの和装をレトロモダンと呼ぶこともありますが、これらはオカルト・ファンタジー な要素を持つ マンガ や アニメ、ゲーム といった創作物の世界でも洗練され進化し、大正時代に女学生に用いられた矢絣柄の袴着や弓道着などとともに、ひとつのファッション様式として大きな存在感を持っています。
同人 の世界では イラスト だけでなく、コスプレ を通じた実際の服飾制作にもその影響が及んでおり、巫女服を起点に和風コスチュームの人気が高まる傾向にあります。 一般人 にとって和装は着つけるだけでも敷居が高いものですが、自作までするとなるとその困難さはより大きなものとなります。 既製品を買おうにも、ひと昔前まではどこで売っているかもわかりません。
どんな衣装もそうですが、専門的な知識を持ち一家言ある人にとって、「和服っぽい何か」「巫女っぽい何か」 は見ていて違和感がすごくて我慢がならないという場合もあるのでしょうが、創作物やコスプレを通じて和装に親しむ人たちが増えるのは素晴らしいことでしょう。 大学の卒業式や成人式以外はせいぜい武道系の部活や花火大会や温泉地での浴衣程度にしか和服に触れないのは、これほど豊かな和装文化を持つ国に生まれ育った人間としてもったいないと思います。
ネット の時代となり、様々な情報が得られやすくなったことで、巫女服もより本来の巫女装束に近い工夫が凝らされたものが増えてきました。 近年ではコスプレ用やハロウィンの扮装衣装として激安店でも 通販 でも巫女っぽい服が簡単に手に入るようになりました。 また日本の コンテンツ に触れた外国人らにも、その魅力が広がるようになっています。
そもそもが職業用の装束でもある巫女装束が多くの人たちの 日常 の生活にどれくらい必要とされるかはともかく、例えば1992年の 「美少女戦士セーラームーン」 大ヒットとそこに登場する キャラ セーラーマーズこと火野レイの人気によって女子の間で巫女さんへの注目が高まり初詣の際の巫女さんアルバイトが人気になったなんて話も真偽はともかくありますし、古くて伝統のある文化と新しい文化との相互作用には期待したいと思います。
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